住宅資材業界とナイス株式会社を素適に結ぶ信頼ホットライン ― ナイスビジネスレポート
第1763号   2002年(平成14年)10月25日発行
判例から学ぶ
住宅トラブル回避法その1
ナイスビジネスレポート編集部
住宅トラブル増加?
 住宅産業は 「クレーム産業」 と呼ばれるほど、 住宅に関するトラブルは多く発生しています。 下の図は、 全国の消費生活センターと国民生活センターに寄せられた 「戸建住宅」 に関する消費生活相談の受け付け件数です。 相談件数が一貫して増加していることが分かります。
 住宅は、 お施主様にとっては 「一生に一度」 の大きな買物です。 お施主様も真剣ですから、 小さなことでも不満につながりやすいと言えます。 一方で、 近年は、 インターネットの普及により消費者がさまざまな情報を入手しやすくなっています。 なかには、 「言うことを聞かなければインターネットに掲載するぞ」 などと恐喝まがいの訴えをする消費者もいるようです。
 これらの住宅トラブルやクレームに遭遇し、 訴訟に発展した場合、 多くの時間と費用がかかるうえ、 周辺地域の信頼も失いかねず、 工務店様にとっては大きな打撃となってしまいます。
 そこで、 これまでの住宅関連の裁判の判決 (判例) をもとに、 住宅トラブルになりやすいポイントを、 住宅建設の流れに沿って解説します。 今回は、 「お施主様の相談を受けてから契約まで」 を取り上げます。

戸建住宅に関する消費生活相談の件数
(国民生活センター 消費生活相談データベースより)

相談から申し込みまで
不動産会社 Y
マンションの残金を支払え!
契約解除して手付け金没収するぞ!

マンション購入者 X
日当たり良好って
言ったのに… 
手付け金を返して!

ケース 1  日照問題
 判決 不動産会社の敗訴 (平成11年9月8日 東京高裁判決)
詳細
 不動産会社 Y とマンションの売買契約を結び、 手付け金と中間金を支払った X は、 契約後に南側にマンションが建てられることになったのを知って、 マンションの残金を支払わずにいました。 これに対して、 不動産会社 Y は、 7日以内に支払わなければ売買契約を解除して手付け金を没収するとの意思表示をしました。 Y は、 当分の間南側に建物が建つことはないという見通しを X に口頭で告げており、 広告でも日照がよいことが強調されていました。
 東京高裁は、 専門的知識を持つ Y は、 X に対して、 売却物件の日照・通風などに関して正確な情報を提供する義務があるとしました。 そして、 「南側に建物が建てられることはなく日照は良好」 との期待を持たせて X にマンションを購入させた Y には、 告知義務違反の債務不履行があったとして責任を認め、 手付け金の半額に当たる金額の支払いを命じました。

解説 専門的知識を持つプロには、 説明責任が問われます。 安易な文言で施主のイメージを過大に膨らませることは、 自分の首を締めることになりかねません。
 お施主様は、 モデルハウスやチラシを見たり、 建物についての説明を聞いたりして、 イメージを膨らませています。 そのイメージと現実とのギャップが、 トラブルのもとになりやすいポイントの一つです。 トラブルを回避するためには、 お施主様のイメージと現実との違いを説明し、 理解・納得してもらうこと、 不確実なことを 「絶対…」 というようなオーバートークはしないことが大切です。


買主 X
銀行から融資を受けられなくなっちゃった。
契約解除したいんだけど。

不動産会社 Y
そりゃないよー

ケース2  お施主様が融資を受けられない
 判決 不動産会社の敗訴 (平成9年9月18日 東京地裁判決)
詳細
 買主 X は、 居住用土地の売買契約を締結し、 手付け金を支払いましたが、 その後、 年齢や年収金額などを理由に金融機関から融資を断られてしまいました。 そのため、 不動産会社 Y に対し、 売買契約の解除と手付け金の返還を求めました。
 この件では、 「買主の責めに帰しない事由により金融機関などからの資金が調達できなかった場合には、 買主保護のために売買契約解除を認める」 というローン特約があったため、 融資を受けられなくなったことについて、 X に責任 (帰責事由) があるかどうかが争点となりました。
 東京地裁は、 X が住宅ローンを受けられるよう、 複数の銀行に対して申し込みを行うなど努力を尽くしており、 融資が受けられなかったのは X のせいではないとして、 X の Y に対する売買契約解除の意思表示は有効であると認めました。

解説 相談から受付までの段階では、 お施主様から資金繰りや返済計画、 税金、 法律の相談を受ける場合もあります。 特にお金の話は、 トラブルのもとになりやすいものです。 判例は売買契約締結後に起こったトラブルですが、 相談段階の話の内容が、 後々のトラブルのもとになってしまうこともあります。
 お施主様の資金繰りが悪化した場合、 工務店様の代金回収に影響が及びかねません。 この段階でお施主様に対し、 住宅ローンの融資条件などの資金計画への説明・アドバイスをしっかりとしておけば、 リスクを小さく抑えることができます。


敷地調査〜プラン作成
建て主 X
地盤沈下だ。
訴えてやる!

住宅会社 Y
造成業者が地盤は
大丈夫と言っていたのに…
オレの責任なの?

ケース3  地盤沈下は住宅会社の責任!?
 判決 住宅会社の敗訴 (平成11年10月20日 福岡地裁判決))
詳細
 建て主 X は、 住宅会社 Y が販売委託を受けていた建築条件付分譲地を購入し、 Y に新築を依頼しました。 宅地は、 急斜面を造成した新興住宅地でした。 ところが、 入居3年後、 盛り土の部分が不同沈下を起こして、 基礎にひび割れが発生。 建て主 X は住宅会社 Y に対して、 損害賠償を請求しました。
 住宅会社 Y は、 「造成業者から地盤はしっかりしていると聞いており、 自らの責任はない」 と主張しました。 しかし福岡地裁は、 住宅会社 Y には建物の不同沈下を起こさないようにする 「安全性確保義務」 があるとして、 建て主の請求をほぼ全面的に認め、 ジャッキアップ工法による改修費のほぼ全額、 約1,200万円の支払いを命じました。

解説 トラブルを未然に防ぐためには、 敷地調査で事前にチェックすることが重要です。 なかでも地盤トラブルは、 見えない部分が多い上に、 トラブルが発生した場合、 改修などでかかる費用額が大きいため、 念を入れてチェックする必要があります。 住宅会社には、 造成業者が入った土地であっても、 不同沈下を起こさないように安全性を確保する義務があるのです。
 事前の敷地調査では、 地盤のほかにも、 用途地域や防火地域の指定や、 建ぺい率、 容積率、 建物の高さなどが法律にあてはまっているかどうかのチェックも大切です。 その際には、 新しい法令の確認だけでなく、 その地域独自の条例や規約なども調査しておく必要があります。 また、 近隣住民とのトラブルを起こさないために、 周辺環境の調査や、 隣家との境界線を明確にしておくことも重要です。


買主 X
公庫の共通仕様書
と違っている。
瑕疵だ!

住宅会社 Y
波線の引かれていない
部分は努力目標だ。
瑕疵じゃない!

ケース4  公庫の必須条件以外は瑕疵の対象か?
 判決 住宅会社の敗訴 (平成13年1月29日 札幌地裁判決))
詳細
 買主 X は住宅会社 Y が販売する分譲住宅を、 住宅金融公庫の融資を受けて購入しました。 ところが、 引き渡し後に不良施工が見つかったため、 Y に対して損害賠償を請求しました。
 不良個所とされた部分には、 公庫融資の共通仕様書の必須条件 (波線が引かれている部分) 以外のものも含まれていました。 住宅会社 Y は、 必須条件 (波線部分) 以外は努力目標であり、 必ずしも守る必要はなく、 瑕疵には当たらないと主張しました。
 札幌地裁は、 融資必須条件以外であっても瑕疵判断基準として採用できるとし、 X の主張をほぼ認め、 損害賠償の支払いを命じる判決を言い渡しました。

解説 公庫の共通仕様書には、 必須条件に波線が引いてありますが、 必須条件 (波線部分) 以外も瑕疵判断の基準として採用されます。 共通仕様書の内容と異なった施工を行った場合、 債務不履行 (契約がきちんと履行されないこと) として、 契約を解除されたり、 損害賠償を請求される可能性もあります。 公庫を利用する場合は、 共通仕様書が重要なものであることを認識し、 契約の際の仕様の確認を徹底しておく必要があります。


見積り〜契約
保険会社
「ふかし」 の契約書は詐欺だ!

住宅会社Y
施主の要求に
応えただけなのに…

ケース5  「ふかし」の契約書は詐欺?
 判決 住宅会社の敗訴 (昭和62年5月26日 東京高裁判決))
詳細
 建て主 X は、 従前居住していた土地建物の住宅ローンの支払いが不能となったため、 土地建物を処分して残った債務を一時に返済しなければならなくなりました。 そこで、 住宅会社 Y と共謀して、 この土地建物を売却し、 新しく建て替える住宅の金額について実際よりも高い金額の契約書を作り上げ (「ふかし」)、 新たに住宅ローンの申請を行いました。
 ところが、 X はこの住宅ローンの支払いもできなくなったため、 X と融資契約を結んでいた金融機関は、 保証保険契約を交わしている保険会社から債権を回収することとなりました。 保険会社は、 売買契約書を調べたところ 「ふかし」 があり、 詐欺行為にあたるとして、 住宅会社 Y に支払いを求めました。
 東京高裁は、 住宅会社 Y は、 建て主 X が以前住宅ローンの支払い不能となったことや、 生活保護を受けている状態にあることを知りながら、 「ふかし」 の契約書を作成して、 金融機関と保険会社を欺罔した (あざむいた) ものであり、 住宅ローンの支払いが不能となることは容易に予見でき、 「ふかし」 の契約書作成と保険会社の損害との間の因果関係が認められ、 不法行為に当たるとして、 Y の敗訴と判断しました。

解説 例えお施主様の要望でも、不都合な点があればプロとしてアドバイスしなければなりません。このケースのように、「ふかし」の契約書が不法行為とみなされ、住宅会社側に責任が問われることもあります。お施主様から「契約書の代金を上乗せしてくれ」と頼まれたとしても、「ふかし」の契約書は作成しないようにしてください。


販売業者 Y
契約撤回なら違約金を払え!

買主 X
本契約を結んだ
わけじゃない!

ケース6  違約金はいくらが妥当?
 判決 販売業者の敗訴 (平成14年7月19日 大阪地裁判決))
詳細
 中古車を探していた買主 X は、 販売業者 Y を訪れて探しましたが、 希望のものが見つかりませんでした。 そこで、 販売業者 Y は 「探す」 として X に仮予約伝票を作成しましたが、 X は後日、 別の業者で希望車種を見つけたとして断りの連絡を入れました。 そこで、 販売業者 Y は、 X に対して違約金 (キャンセル料) 約18万円を要求しました。 X は 「本契約を結んだわけではない」 として支払いを拒否したため、 Y が提訴しました。
 このケースでは、 契約を解除したときの損害として請求された 「違約金」 の額が妥当かどうかが争点となりました。 大阪地裁は、 仮契約の2日後に解約していること、 商品は特殊なものではなく仮に現物を入手できていたとしてもY に不利益は生じないことから、 経費などの損害はなく、 予定していた利益 (「得べかりし利益」) の算入も認められないと判断。 Y の請求は棄却されました。

解説 住宅の請負契約の場合も、 違約金の算定について、 従来の民法の解釈では、 住宅会社に任されていました。 つまり、 「契約を解除する場合、 違約金として請負金額の10%を支払う」 などの特約を契約に盛り込むことができたわけです。 また、 遺失利益 (「得べかりし利益」) も違約金に算入できるとされていました。
 しかし、 このケースでは、 消費者契約法を理由に、 地裁レベルで初めて 「業者の遺失利益は損害額に含まれない」 との判断がなされました。 判例は中古車の売買契約でしたが、 今後、 住宅での同様の裁判にも影響する可能性があります。
 これまで 「一律10%」 のようにしていた違約金の金額を、 今後は 「着工前なら請負金額の△%、 着工後なら○%」 のように、 出来高に応じて定める必要があるかもしれません。 自社の違約金条項を一度見直してみて下さい。  


トラブル回避のポイント

 今回取り上げた判例から、 トラブル回避のポイントをまとめます。 トラブルを引き起こさないためにも、 一度自社の契約書を見直してみてはいかがでしょうか。

   ・ プロには正確な情報を提供する義務がある
   ・ お施主様のイメージと現実の違いを明確に
   ・ オーバートークはしない
   ・ お施主様の資金繰り悪化は、 代金回収に跳ね返ってくる
   ・ 資金計画への説明・アドバイスはしっかりと
   ・ プロには安全性を確保する義務がある
   ・ 地盤沈下は造成業者だけの責任ではない
   ・ 公庫の共通仕様書は必須条件以外も瑕疵判断の基準になる
   ・ 「ふかし」 の契約書作成は不法行為になることも
   ・ 自社の違約金条項の点検を